メモ

大学院の後輩のひととのお話の中、思いがけず自分の研究方向を振り返る。
以下マニアックで観念的なので、興味のある方だけどうぞ


そもそもの話題は、「景観」とはなにか。
「景観」を研究するということは、突き詰めれば任意の空間の中に存在する対象物の集合を見た、その主体が抱く「印象」を研究することである、といえるのではないか。
その場合、視線は二つ。

  • 対象物の存在する空間を生活圏とする共同体の構成員からの視線
  • 別の空間を生活圏とする観察者の視線

両者の印象の違いは、視点の違いから生じる。
これを立脚点とすると、「景観」を研究する地理学のスタンスは、
「共同体の構成員の抱く印象」を外からの観察者の視点で「景観の構成物」で説明する
というものである。
つまり、「かれらは対象物AをA'として捉える。よって対象物BはB'と捉えられる」
ここに論理の捩れがある。
果たして「景観」は、内部の構成員と外部の観察者、誰からの視線をいうのか?
「環境」を論じたとして、何が言えるのか?
その視線を持つ者の心理をシンボライズすることが目的なのか?
・・・そう考えると、客観的に「景観」を捉えることに意味があるのか?
心理のシンボライズの過程を理論化するのが目的なのか?
ある地域のシンボライズの過程の理論化が成功したとして、それを元に他の場所の「景観」からその視線の持ち主の心理を探るのか・・・?
しかしそれでは、得られた「心理のシンボライズ」、それは「景観」を研究する手段ではないのか?
つまり、解明するための手段だったはずのものが、解明の目的となってしまう。
この図式は、「地域の性質を表す統計結果をいかに算出するか」という、本来解析の手段であることが目的となってしまった、地理学の「失われた10年」を踏襲するのみではないだろうか?


・・・と、ここまでがその話題。
自分が「景観」の意味がわからない、ということを説明しようとして捻り出した理屈である。
で、この理屈をひねり出す過程でひらめく。
自分はこの「視線」を探るために地図上のプロットを打ったのではないか、と。




つまりはこういうこと。
1.自分の研究対象としている「ガラガラ」に対して、それを盆に供える地域の「行為者」がいる。彼らは、自分なりに獲得した又は共同体の共有意識である、「知識や情報」を持ち、それを元に自らが行っている行為と対象に「解釈」をつける。この「解釈」を、ある時は共同体で共有し「知識や情報」にフィードバックする。
で、自分がそれを調査するとき、外部の観察者が「学術的」で「客観的」な知識や情報を抱きながら、対象物、行為者、彼らの解釈を眺める。その結果の自分の出した「解釈」は「客観的」であると判断される。
・・・だがしかし、果たして観察者は客観足りえるのだろうか?
2.そのことを検証するためには、対象物は一つでは足りない。
「ガラガラ」、つまり対象物Aと同時に同一の地域にある対象物Bを調査する必要がある。
行為者には対象物Aに対してはa、対象物Bに対してはbという解釈をつける。
このとき、対象物Aと対象物Bの「差」と、解釈aと解釈bの「差」、この「差」の違いが、行為者のバイアスを示す。
対象物と解釈のそれぞれの「差」を判断するのが観察者である。その判断の根拠は客観的なものではなくてはならない。
このバイアスを基準として対象物A、行為者の解釈aを、観察者が「解釈」する。
この場合、問題は次の3点である。

  • 「差」をどのように図るか?
  • バイアスをどう扱うか?
  • 対象物Bをどのように選定するのか?

3.対象物Bの選定する基準として、対象物Aと同一の分布を示すものでなければならない。


ここで今まで自分が行ってきた研究を振り返ると、
卒論で求めたのは、3.の対象物A、すなわち「ガラガラ」の分布の広がりである。その広がりを示すものについては結論が出ていない。
修論で求めたのは、1.のある地域における対象物A、すなわち「ガラガラ」の役割である。役割とはつまり、1.における観察者の「解釈」である。
では今後の課題としては、

  • 対象物A(「ガラガラ」)と分布が重なる対象物Bの選定←この結果もしくは過程で対象物Aの分布の意味が解明される可能性もある
  • 修士論文における観察者の解釈の正当性
  • 「差」の図り方、およびバイアスの扱い方
  • そもそも2.の分析方法は適切な方法なのか?その根拠は?



話は飛ぶが、文科系学問の「科学」とはなにか?
自然科学系における「科学」とは、「同一の条件下で同一の資料を使って同一の方法を行えば得られる同一の結果」のことである。
文科系学問では、「誰しもが納得しうる論理」くらいでしか説明ができない。


長々と続いた。
最後まで読みきった人はいるのだろうか?
そしてその人に、この理屈は通じるのだろうか?