「文化」と「科学」の転換点

日中韓でツボの位置が統一されるかもしれないという記事を読む。

ツボの位置、WHOが世界基準決定へ
 はり・きゅうで使われる361か所のツボの位置が国際的に統一されることになった。世界保健機関(WHO)が茨城県つくば市で31日から開く国際会議でツボの統一基準を決める。
 現在はツボの位置が国ごとに異なり、それぞれ効果はあるとされるが、国際的に効用などを議論する際に混乱のもとになっていた。
 ツボを使った治療は2000年以上の歴史がある。それぞれのツボの位置や名称は治療が盛んな日本、中国、韓国の3か国でそれぞれ引き継がれていくうちに微妙に変化していった。
 WHOは1989年に361か所のツボの名称を統一し、国際番号をつけた。さらに、2003年から日中韓の研究者からなる諮問会議を設け、位置の統一を検討してきた。
 当初は361のうち92のツボが食い違っていたが、その後の検討で、意見が割れるツボは6か所だけになった。そのうちのひとつは手のひらにある「労宮」。日本と中国はひとさし指の下の中指寄りのあたり、韓国は中指の下の薬指寄りのあたりだとして、この2か所で議論が続いている。31日からの会議で最終調整を行う。
 ツボの検証は、臨床的な有効性ではなく、それぞれのツボの根拠となる59の古典を調べ、より伝統を踏まえた位置に統一する。場所がずれているとされたツボの臨床的な有効性についても研究は継続するという。
 WHOの諮問会議に日本側代表として参加する形井秀一・筑波技術大教授は「解剖学、生理学なども踏まえた科学的なツボの検証が進んでおり、今回の基準で国際比較ができるようになる」と話している。
(2006年10月27日3時4分 読売新聞)

http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20061027i501.htm


ツボの位置は、専門ではないのではっきりとは言えないのですが、数多くの実験を積み重ねて効果のある場所を一つ一つ特定してきたと考えられます。
そういう意味で、経験によって蓄積された知識のひとつだと言えます。
また、それらの知識には占術めいた説明がなされ、独立した体系ではないと考えられます。
つまり、ツボだの何だのいう東洋医学は、純粋に体を治すだけが目的ではない、文化的な説明体系の中の一つに位置づけられるのではないかと、思われるのです。


さて推測だけで積み重ねた砂上の楼閣の論理ですが、以上の仮説が正しいとして、以下に続きます。


東洋医学が医学部で、また漢方が薬学部で取り上げられるようになってから久しい時間が経ちました。
ですが、それらの知識は「医学」的または「薬学」的有効性を解析するものであって、文化的な説明体系に踏み込むものではなかったように思われます(ああここでも推測だ・・・)。
そこで今回のWHOによる統一会議。
「当初は361のうち92のツボが食い違っていた」ものを、討議の結果「意見が割れるツボは6か所だけ」になったそうです。
これら3カ国で食い違っていた「92のツボ」は、それに連なる説明体系が3カ国で異なっていたということを意味するのではないでしょうか。
それを討議して「6か所だけ」しか意見が割れなくなったのは、ツボによる治療を説明体系から切り離すことを意味します。
自然現象を意味から切り離すことで現代科学が成立したことから見ると、この「統一」は、ツボが「文化」から切り離されて「科学」または「医学」になるという、決定的な瞬間ではないだろうかと思われます。
思えば、西洋医学も、かつて纏っていた意味から切り離されて成立したものでした。